「授乳中に使えない化粧品成分」は誰が決めているのか|公的機関の公表状況を調べた

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産後、鏡を見て「これはさすがに手を入れたい」と思ったとき、最初に立ちはだかるのが 「授乳中にこれを使っていいのか」という問いです。検索すると「授乳中に避けるべき成分リスト」が いくつも出てきます。レチノール、ハイドロキノン、トラネキサム酸、サリチル酸——並んでいる成分は サイトによって微妙に違い、理由の説明もばらつきます。

そこで、そのリストの出典はどこなのかを逆から辿りました。 結論を先に書くと、日本の公的機関は、授乳中の「化粧品成分」については一覧を公表していません。 公表されているのは「薬」の一覧です。この違いが、ネット上のリストが食い違う理由をほぼ説明します。

この記事は、何が安全かを判定するものではありません。何がどこまで公表されていて、 どこから先は公表されていないのかを整理し、そのうえで自分の製品について確認する手順を示します。

先に結論:公表されているのは「薬」で、化粧品ではない

授乳と薬について、日本で公的な情報提供を行っているのは 国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」です。 同センターのページを確認したところ、公表状況は次のようになっていました。

対象公的な一覧の公表実際に公表されているもの
薬(医薬品)あり 「授乳中に安全に使用できると考えられる薬(50音順)」「同(薬効順)」「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」の3種
化粧品の成分なし 同センターのページに、レチノール等の化粧品成分への言及は見当たらない

出典:国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター(2026年8月時点で編集部が確認)

ここが分かれ目です。「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」という一覧は 実在します。しかしそれは薬の一覧であって、化粧品の一覧ではありません。 ネット上の「授乳中NG成分リスト」は、この公的な一覧に対応するものが存在しないまま流通しています。

妊娠と薬情報センターが実際に公表しているもの

同センターが公開しているのは、上の表のとおり薬の一覧と、個別相談の窓口です。 相談については「出産後の方が対象です。※事前予約が必要です」と明記されており、 電話またはオンラインで受け付けている旨が記載されています。

つまり、授乳中に薬を飲んでよいかという問いには、公的な一覧と、 個別に相談できる窓口の両方が用意されています。 処方薬や市販薬について迷ったときは、まずこの一覧を見るのが筋の通った手順です。

一方で、化粧品について同じ手順を踏もうとすると、参照先がありません。 「安全に使用できると考えられる化粧品成分」という公的な一覧は、確認した範囲では存在しませんでした。

化粧品成分が対象に入っていない理由

これは公的機関の怠慢ではなく、薬と化粧品では制度上の位置づけが違うことによります。

薬は、体内に入れて作用させることを前提に承認されるため、 授乳中の移行についても評価と情報の蓄積があります。 対して化粧品は、法律上「人体に対する作用が緩和なもの」として扱われる区分です。 効能効果として言えることの範囲があらかじめ限定されており、 「体内に入れる前提の評価」を通っていません。

そのため、授乳中の使用可否という問いは、化粧品の制度が本来想定している問いの外側にあります。 公的な一覧が無いのは、リストを作り忘れているのではなく、 そもそも一覧を作る枠組みが薬とは別だからだと理解するのが実態に近いはずです。

この記事の立場をはっきりさせておきます。 ここでは「だから化粧品は安全だ」とも「だから危険だ」とも述べません。 どちらも、公表されていない事柄について断定することになるためです。 本記事が示せるのは、公表されている範囲と、その外側の境界線までです。 個別の製品について判断が必要な場合は、後述の手順で製造販売元と医療者に確認してください。

では、ネットの「NG成分リスト」はどこから来たのか

公的な一覧が無いにもかかわらず、リストは大量に流通しています。出典を辿ると、 おおむね次の三つに行き着きました。

出所性質読むときの注意
医療機関(皮膚科・美容皮膚科)のコラム医師の見解。根拠の示し方は施設により幅がある 見解であって公的基準ではない。施設間で結論が割れることがある
製造販売元の公式FAQ・注意書きその製品についての自主的な案内 最も具体的だが、あくまで自社製品についての記載。他社製品には及ばない
個人の体験談・Q&Aサイト使った・使わなかったという個人の記録 安全性の根拠にはならない。ただし「何を不安に思うか」の把握には役立つ

実際に、レチノールについて医療機関のコラムを複数読むと、 「外用の場合は経皮吸収される量が少ない」と説明したうえで、 それでも「使用前に医師に相談を」と併記する形が目立ちました。 断定を避けた書き方が共通しているのは、断定できる公的根拠が無いからと読むのが自然です。

つまり、ネット上のリストが食い違うのは、誰かが間違っているからというより、 参照すべき共通の一覧が存在せず、各自が自分の判断で書いているためです。 リストどうしを見比べて多数決を取っても、根拠は増えません。

メーカーの表記が各社で割れる

同じ成分を配合していても、製造販売元によって案内の書き方が異なります。 確認していくと、表現はおおむね次の型に分かれました。

ここで重要なのは、記載が無いことと、安全だと保証されていることは別という点です。 記載が無い理由は、想定していない・判断していない・記載欄が無いなど複数あり得ます。 「書いていない=大丈夫」と読むのは、書かれていない事実を足して読むことになります。

実務的な結論。成分名で検索して一般論のリストに当たるより、 手元にある製品の製造販売元が、その製品について何と書いているかを見に行く方が速く、確実です。 リストは製品を特定しませんが、公式FAQは特定します。

自分の製品について確認する三つの手順

以上を踏まえると、実際にやることは次の三段になります。難しい判断は含みません。

手順1|製品の箱と公式サイトを見る。 まず、手元の製品そのものの注意書きを読みます。 「妊娠中・授乳中」への言及があるかどうかを確認し、あればその文言をそのまま受け取ります。 無い場合は、無いという事実を確認したうえで次に進みます。

手順2|製造販売元に直接問い合わせる。 公式サイトのお客様相談窓口に、製品名を挙げて聞きます。 成分一般ではなく製品を特定して尋ねるため、最も具体的な回答が得られます。 回答は記録しておくと、後で家族に説明するときにも使えます。

手順3|医療者に相談する。 薬については、前述の妊娠と薬情報センターの一覧と相談窓口があります。 化粧品については、産婦人科の産後健診や、乳児健診の機会にかかりつけ医へ聞くのが現実的です。 「これを使いたいのですが」と製品を示して聞くと、話が早く進みます。

この三段を踏んでも白黒がつかないことはあります。その場合は、 授乳期間が終わるまで待つという選択も含めて、自分で決めることになります。 決めるのは自分だという前提を最初から持っておく方が、リストを探し続けるより消耗しません。

実際にどう確認したか(2人の話)

志水さん(32歳・薬剤師)の話

志水さんは職業柄、調べ方には慣れているつもりだった。 第一子の出産後、以前から使っていた美容液を再開しようとして、配合成分を検索した。 「薬なら添付文書を見ればいい。授乳中の記載も、どこを見ればいいか分かっている。 でも化粧品には、それに当たるものが見つからなかった」。

成分名で検索すると、避けるべきとするページと、まったく触れていないページの両方が出てきた。 「読み比べるほど分からなくなる感覚がありました。 どれも間違ったことは書いていないのに、結論だけが違う。 出典を辿ると、結局どこかのクリニックの見解に行き着く」。

最終的に志水さんが取ったのは、製品を特定して聞く方法だった。 「メーカーのお客様相談室に、商品名を言って聞きました。 そうしたら『妊娠中・授乳中の方は医師にご相談ください』という案内でした。 答えとしては物足りないけれど、少なくともその製品についての公式な回答です。 成分一般の話をいくら読んでも、これは出てこなかった」。

「調べ方を間違えていたと思います。成分から入るとキリがない。製品から入ると一回で終わる。 薬の癖で成分から入ってしまったのが遠回りの原因でした」と振り返る。

篠塚さん(29歳・広報)の話

篠塚さんの場合、つまずいたのは情報ではなく家庭内の会話だった。 産後3か月ごろから抜け毛が増え、洗面所の排水口を見るのが憂うつになった。 「調べていたら、授乳中は使えないかもしれない、という話がいくつも出てきて。 それを夫に話したんです」。

返ってきたのは「気にしすぎだよ」「今はそんなこと考えなくていいでしょ」という言葉だった。 「たぶん、励ますつもりだったんだと思います。でも私は、 話を最後まで聞いてもらえなかったという感じの方が強く残りました」。

その後しばらく、篠塚さんはこの話題を家で出さなくなった。 「一人で調べて、一人で決めて、黙って使うか使わないかを決めていました。 今思うと、しんどかったのは抜け毛そのものよりそっちの方でした」。

変化があったのは、夫が別の場面で「最近きついよね」と言ったときだという。 「内容は何も解決していないんですけど、 気にしている、ということ自体を認めてもらえた感じがありました。 成分の答えが出たわけじゃないのに、それで少し楽になったのが自分でも意外でした」。

いずれの話も、成分の可否そのものには答えが出ていません。 それでも二人が前に進めたのは、問いの置き場所を変えたからでした。 志水さんは成分から製品へ、篠塚さんは情報から関係へ。次の章はその後者の話です。

産後の見た目の変化を、夫婦の問題にしないために

ここまでは調べ方の話でしたが、産後の美容には、もうひとつ別の面があります。 見た目の変化そのものより、それが夫婦の間でどう扱われるかの方が、しばしば重くのしかかります。

抜け毛や体型の変化に本人が気づいているとき、 パートナーからの「気にしすぎ」「そのままでいいよ」は、 励ましのつもりでも「取り合ってもらえなかった」と受け取られることがあります。 逆に、何も言われないことが「関心を持たれていない」と感じられる場合もあります。 どちらも、変化そのものではなく扱われ方の問題です。

産後は、ホルモンの変動と睡眠不足が重なり、感情の振れ幅が大きくなる時期でもあります。 当サイトでは、この時期に夫婦間で起きるすれ違いを別記事で扱っています。 見た目の話が思ったより刺さる、あるいは相手の反応に納得がいかないと感じるなら、 ガルガル期の基礎知識産後クライシスの全体像も合わせて読んでみてください。 美容の悩みとして処理しようとしていたものが、実は分担や関わり方の問題だったという整理になることがあります。

また、産後の落ち込みが一時的なものか、それとも別の対応が必要なものかについては、 マタニティブルーとの違いで線引きを整理しています。 気分の落ち込みが続いていて日常に支障が出ている場合は、美容の前に医療者に相談してください。

まとめ

この記事は情報の公表状況を整理したものであり、医学的な助言ではありません。 個別の判断は、製造販売元および医療者にご確認ください。

よくある質問

Q1. 授乳中に使ってはいけない化粧品成分の公式リストはありますか。

確認した範囲では、日本の公的機関が授乳中の化粧品成分について一覧を公表しているものは見当たりませんでした。国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターが公表しているのは「薬」の一覧です。化粧品については、製品ごとに製造販売元の案内を確認する形になります。

Q2. ネットのNG成分リストは信用できないということですか。

信用できない、という意味ではありません。医師の見解や製造販売元の案内に基づくものもあります。ただし、それらは公的な統一基準ではないため、サイトによって結論が違うことがあります。リストどうしを見比べるより、手元の製品について製造販売元に直接確認する方が確実です。

Q3. 製品の箱に妊娠中・授乳中の記載がなければ使ってよいということですか。

記載が無いことは、安全だという表明ではありません。想定していない、判断していない、記載欄が無いなど、記載が無い理由は複数あり得ます。判断に迷う場合は、製造販売元の窓口に製品名を挙げて問い合わせてください。

Q4. 薬について調べたい場合はどこを見ればよいですか。

国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターが「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」(50音順・薬効順)と「授乳中の使用には適さないと考えられる薬」を公表しています。個別相談の窓口もあり、出産後の方を対象に事前予約制で電話またはオンラインで受け付けている旨が案内されています。

Q5. 医師に相談したいのですが、何科に行けばよいですか。

化粧品について単独で受診するより、産後健診や乳児健診など既にある通院の機会に、産婦人科やかかりつけ医へ製品を示して尋ねるのが現実的です。皮膚の症状そのものが出ている場合は皮膚科の受診が適します。

Q6. 授乳が終わるまで美容は諦めるしかないのでしょうか。

そう決める必要はありません。この記事で述べているのは、公的な一覧が存在しないため個別に確認する手順が要る、ということだけです。確認したうえで使う、確認しても判断がつかないので待つ、いずれも本人が決めることです。

Q7. 産後の見た目の変化について、夫にどう伝えればよいですか。

伝え方の正解を示すことはできませんが、当サイトでは産後に夫婦間で起きるすれ違いを別記事で扱っています。ガルガル期や産後クライシスの記事が、変化そのものではなく扱われ方の問題として整理する助けになる場合があります。

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