出産費用の医療費控除はいくら?|一時金を引くと全国平均は92,907円

公開 2026-08-31/出典は公的統計。2026年8月31日に各原典で確認

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「出産したら医療費控除で戻ってくる」は、出産費用だけで見るとほとんどの都道府県で成立しません。医療費控除は、支払った医療費から出産育児一時金などの補てん額を引き、さらに10万円を引いた残りが対象です。実際に請求される額(妊婦合計負担額)の全国平均は592,907円で、一時金500,000円を引くと92,907円。10万円の基準に7,093円足りません。都道府県別に見ても、一時金を引いて10万円を超えるのは7都県だけ(東京都・神奈川県・宮城県・千葉県・茨城県・埼玉県・愛知県)で、7県は一時金のほうが大きく残りが出ません。出産費用そのものではなく、妊婦健診の自己負担・通院交通費・家族の医療費を合算して初めて届く、というのが実態に近い形です。

計算式:引くものが2段階ある

国税庁の定める医療費控除額の計算式は次のとおりです。

項目内容
計算式(実際に支払った医療費の合計額-(1)の金額)-(2)の金額
(1)保険金などで補てんされる金額
(2)10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額)
控除額の上限最高で200万円

令和7年4月1日現在法令等 出典:国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)(2026年8月31日確認)

出産の場合、(1)に入るのが出産育児一時金です。国税庁は出産費用の具体例のページでも「出産育児一時金などの補給金は、支払った医療費から差し引く」と明記しています。つまり50万円を先に引いてから、さらに10万円を引くことになります。

全国平均で計算すると、10万円に届かない

厚生労働省が公表している出産費用には2つの数字があります。「出産費用」は室料差額・産科医療補償制度の掛金・その他(文書料やお祝い膳など)を除いた額、「妊婦合計負担額」がそれらを含む=実際に請求される総額です。両方で計算すると次のようになります。

基準にする額全国平均一時金50万円を引いた残り10万円の基準に対して
出産費用(室料差額等を除く)519,805円19,805円80,195円不足
妊婦合計負担額(実際に請求される額)592,907円92,907円7,093円不足

出産費用・妊婦合計負担額は令和6年度(令和6年4月~令和7年3月請求分)。出典:厚生労働省保険局「医療保険制度における出産に対する支援の強化について」令和7年11月20日 第204回社会保障審議会医療保険部会 資料2(p.11 都道府県別グラフ「全国平均」)

どちらで見ても、出産費用だけでは全国平均で10万円に届きません。「出産=医療費控除」と説明している記事は多いのですが、その根拠として出産費用の平均額だけを挙げているものは、一時金を引いていないか、引いたあとに10万円を引くことを書いていないかのどちらかです。

都道府県別:一時金を引いた残りはいくらか

最も残るのは東京都(254,243円)、最も少ないのは熊本県(▲39,366円)です。妊婦合計負担額ベースで10万円を超えるのは7都県(東京都・神奈川県・宮城県・千葉県・茨城県・埼玉県・愛知県)、一時金のほうが大きく残りが出ないのが7県(鹿児島県・秋田県・沖縄県・宮崎県・青森県・鳥取県・熊本県)でした。室料差額等を除いた「出産費用」で見ると、10万円を超えるのは東京都1件だけになります。

都道府県出産費用妊婦合計負担額一時金を引いた残り(合計負担額ベース)同(出産費用ベース)
東京都648,309円754,243円254,243円148,309円
神奈川県586,664円666,820円166,820円86,664円
宮城県526,211円620,181円120,181円26,211円
千葉県529,835円613,506円113,506円29,835円
茨城県531,021円612,957円112,957円31,021円
埼玉県533,274円611,874円111,874円33,274円
愛知県534,767円600,896円100,896円34,767円
栃木県507,736円599,283円99,283円7,736円
兵庫県515,350円587,176円87,176円15,350円
滋賀県486,610円586,337円86,337円▲13,390円
群馬県525,253円586,073円86,073円25,253円
山形県526,472円581,823円81,823円26,472円
富山県516,401円577,184円77,184円16,401円
大阪府492,842円574,086円74,086円▲7,158円
三重県484,940円571,474円71,474円▲15,060円
静岡県507,354円567,452円67,452円7,354円
岡山県510,815円566,767円66,767円10,815円
新潟県509,563円566,412円66,412円9,563円
岐阜県512,685円560,758円60,758円12,685円
山梨県507,616円560,026円60,026円7,616円
長野県509,513円559,940円59,940円9,513円
福岡県491,359円557,100円57,100円▲8,641円
奈良県489,016円555,786円55,786円▲10,984円
石川県495,022円554,882円54,882円▲4,978円
京都府483,095円554,744円54,744円▲16,905円
福島県485,687円554,456円54,456円▲14,313円
徳島県481,528円553,136円53,136円▲18,472円
広島県503,176円549,998円49,998円3,176円
愛媛県475,608円540,204円40,204円▲24,392円
島根県473,601円538,348円38,348円▲26,399円
香川県470,825円537,625円37,625円▲29,175円
長崎県475,256円528,706円28,706円▲24,744円
福井県458,688円525,977円25,977円▲41,312円
和歌山県443,505円523,860円23,860円▲56,495円
岩手県471,547円520,061円20,061円▲28,453円
高知県428,022円512,909円12,909円▲71,978円
佐賀県453,609円507,460円7,460円▲46,391円
山口県451,531円506,960円6,960円▲48,469円
大分県456,710円501,653円1,653円▲43,290円
北海道453,579円500,686円686円▲46,421円
鹿児島県446,123円499,714円▲286円▲53,877円
秋田県445,027円495,295円▲4,705円▲54,973円
沖縄県419,897円492,141円▲7,859円▲80,103円
宮崎県437,034円489,987円▲10,013円▲62,966円
青森県418,787円484,523円▲15,477円▲81,213円
鳥取県419,150円473,212円▲26,788円▲80,850円
熊本県404,411円460,634円▲39,366円▲95,589円

令和6年度(令和6年4月~令和7年3月請求分)・正常分娩・全施設の平均。一時金は原則500,000円で計算。▲は一時金のほうが大きい(残りが出ない)ことを示します。出典:厚生労働省保険局「医療保険制度における出産に対する支援の強化について」令和7年11月20日 第204回社会保障審議会医療保険部会 資料2(p.11 都道府県別グラフ「全国平均」)

残りがマイナスでも、他の医療費から引く必要はない

熊本県のように一時金のほうが大きい場合、「余った分を家族の他の医療費から引かないといけないのか」が問題になります。国税庁は次のように定めています。

保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。

つまり出産育児一時金は出産費用からしか引きません。同じ年に家族が支払った歯科治療費や入院費が別にあるなら、そちらは満額のまま合算できます。ここを誤解して「一時金が出たから今年は医療費控除を諦めた」となるのが、この制度でいちばん損をしやすいところです。

出産まわりで対象になるもの・ならないもの

国税庁が出産費用の具体例として挙げているものは次のとおりです(原文)。

対象になるもの

対象にならないもの

令和7年4月1日現在法令等/根拠法令 所法73、所令207、所基通73-3、73-7~9 出典:国税庁 タックスアンサー No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例

見落とされやすいのが1つめの「妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用、また、通院費用」です。妊婦健診は出産費用とは別枠で、市町村の公費助成の対象になっています(妊婦1人あたりの公費負担額は全国平均11.4万円・最低8.6万円~最高14.1万円、令和7年4月時点)。助成で賄われた分は自己負担ではないので控除の対象になりませんが、助成券を超えた自己負担分と通院の交通費は対象です。出産費用だけで10万円に届かない以上、実際に控除を使えるかどうかはこの積み上げで決まります。

計算するときに間違えやすいところ

「出産費用の平均」をそのまま使わない

ニュースやまとめ記事で「平均約50万円」とされているのは室料差額等を除いた「出産費用」です。実際に請求されるのは「妊婦合計負担額」で、令和6年度の全国平均で73,102円多くなります。どちらの数字を使うかで、一時金を引いた残りは19,805円から92,907円まで変わります。

室料差額を入れてよいかは、国税庁のページに書かれていない

室料差額(差額ベッド代)を医療費控除の対象にしてよいかは、No.1122・No.1124のいずれにも明示がない。No.1122は「入院の際の部屋代や食事代の費用…で通常必要なもの」を対象とし、全体に「一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」という条件をかけている。断定できないため、本記事では室料差額を含む額(妊婦合計負担額)と含まない額(出産費用)の両方を並べる。個室を選んだ場合の差額をどう扱うかは、税務署または税理士に確認してください。本記事の表で2つの基準を並べているのはこのためです。

10万円は固定ではない

差し引くのは「10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額)」です。産休・育休で所得が下がった年は、この5%のほうが適用されて基準が10万円より低くなることがあります。共働きで夫婦のどちらで申告するかを考えるときは、税率の高いほうにまとめるのが一般的とされますが、所得が200万円未満の側で申告したほうが基準が下がって有利になる場合もあります。

帝王切開は別の補てんが入る

帝王切開など保険診療となった部分は高額療養費制度の対象。医療機関の窓口で支払う(保険適用の)医療費が自己負担限度額を超えた場合、超えた額が支給される。一方、正常分娩の分娩料、無痛分娩の費用、室料差額(差額ベッド代)、お祝い膳等のアメニティ費用は保険適用外のため高額療養費の対象外。なお高額療養費制度は令和8年8月から見直し(所得区分の細分化・年間上限の新設等)が施行されており、区分ごとの具体的な自己負担限度額は本調査では未取得。高額療養費で払い戻された分も「保険金などで補てんされる金額」にあたるため、医療費から差し引く必要があります。

自分の場合の出産費用を調べる

控除額の計算に使う実額は、住んでいる地域と施設で変わります。都道府県別・施設種別・費目別の平均は出産費用の平均にまとめています。一時金の額と受け取り方(直接支払制度・受取代理・償還払い)は出産育児一時金を参照してください。償還払いを選んだ場合は窓口でいったん全額を支払うため、領収書がそのまま医療費控除の資料になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 出産費用は医療費控除の対象になりますか?

対象になります。ただし出産育児一時金など補てんされた金額を先に差し引き、さらに10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を引いた残りが控除額です。令和6年度の全国平均で計算すると、実際に請求される額(妊婦合計負担額)592,907円から一時金500,000円を引いて92,907円となり、10万円の基準に7,093円足りません。妊婦健診の自己負担・通院交通費・家族の医療費を合算して初めて届く形になります。

Q2. 出産育児一時金は医療費から引かないといけませんか?

引きます。国税庁は「出産育児一時金などの補給金は、支払った医療費から差し引く」と明記しています。ただし引くのは出産費用からだけです。「保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。」と定められているため、一時金が出産費用を上回っても、その差額を家族の他の医療費から引く必要はありません。

Q3. どの都道府県なら医療費控除が使えますか?

妊婦合計負担額の平均から一時金50万円を引いて10万円を超えるのは7都県(東京都・神奈川県・宮城県・千葉県・茨城県・埼玉県・愛知県)です。残りが出ないのは7県(鹿児島県・秋田県・沖縄県・宮崎県・青森県・鳥取県・熊本県)でした。ただしこれは平均値の比較で、実際には施設や分娩の内容で大きく変わります。また出産費用以外の医療費を合算できるので、この表で下位でも控除が使えないという意味ではありません。

Q4. 妊婦健診の費用は医療費控除の対象ですか?

国税庁は対象の具体例として「妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用、また、通院費用」を挙げています。ただし妊婦健診は市町村の公費助成の対象で、助成で賄われた分は自己負担ではないため控除の対象になりません。助成券を超えて自分で支払った分と、通院にかかった交通費が対象です。

Q5. 入院中の食事代やタクシー代も対象になりますか?

国税庁は「病院に対して支払う入院中の食事代は、入院費用の一部として支払われるもの」と「出産で入院する際に、電車、バスなどの通常の交通手段によることが困難なため、タクシーを利用した場合のタクシー代」を対象として挙げています。一方で「入院に際し寝巻きや洗面具など身の回り品を購入した費用」と「他から出前を取ったり外食したりしたものの食事代」は対象外です。同じ食事代でも、病院に支払う入院中のものか、出前や外食かで扱いが分かれます。

Q6. 差額ベッド代(室料差額)は含めてよいですか?

国税庁のタックスアンサーNo.1122・No.1124のいずれにも明示がありません。No.1122は「入院の際の部屋代や食事代の費用、コルセットなどの医療用器具等の購入代やその賃借料で通常必要なもの」を対象として挙げつつ、全体に「その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」という条件をかけています。本記事では断定を避け、室料差額を含む額(妊婦合計負担額)と含まない額(出産費用)の両方で計算した表を載せています。判断は税務署または税理士にご確認ください。

Q7. 夫婦のどちらで申告するのが得ですか?

医療費控除は生計を一にする家族の分をまとめて1人が申告できます。一般には税率の高いほうにまとめると還付額が大きくなりますが、差し引く基準額が「10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5パーセントの金額)」であるため、産休・育休で所得が下がった側で申告したほうが基準が下がって有利になる場合もあります。還付額は課税所得によって変わるので、両方で試算して比べてください。

出典

本記事は、医療費控除のルール(国税庁タックスアンサー)と、出産費用の実額(厚生労働省の公表値)という別々の一次情報を突き合わせたものです。税額の判断は個別の事情で変わるため、実際の申告にあたっては税務署または税理士にご確認ください。

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